先週の滋賀(湖北・湖東)ドライブでは、醒ヶ井宿に行く前に「豊郷小学校旧校舎群」にも立ち寄った。醒ヶ井宿も旧豊郷小学校も中山道沿いにあり、車で30分程度の距離にある。
豊郷小学校旧校舎は、1937年(昭和12年)に地元の実業家である古川鉄二郎の寄贈により建設された。ヴォーリスの設計による建築としても知られる。
ヴォーリス建築の代表として知られる関西学院大キャンパスと神戸女学院キャンパスは過去ブログで紹介しているので興味ある人は以下のブログを参照。
今回行きたいと思ったのは、ヴォーリス建築であることもさることながら、今から約20年前に、当時の豊郷町長が校舎建て替えを強行しようとし、町長のリコールなど社会問題にまで発展した場所で、その当時は結構大々的に報道されていたのを思い出す。その後結局どうなったのか知りたくなって行ってみた次第である。
現地に到着してまず驚いたのが、建物の大きさと建物の立派さ。2008年(平成20年)に大規模改修を行っているとのことで、少なくとも外観については非常にきれいで壮観だった。この小学校ができた当初は「白亜の殿堂」と呼ばれていたらしいが、納得。
行くとわかるが、小学校にしては本当に大きな建物である。
玄関前にある噴水。何の魚だろうか。鯉?
玄関の正面にある展示室の中に当時の校舎の模型が展示されている。
ここは元々職員室だったのだろうか。「電話室」なんてものがある。
廊下が長い!
1階は展示室のほかに、教育委員会事務室、豊郷町立図書館、子育て支援施設といった具合に町の行政樹関として使われている。
この小学校で特筆すべきは、この階段。
階段の手すりにある「うさぎ」と「かめ」のオブジェについては、豊郷小学校HPにエピソードが記されている。「自分はカメだから・・」なんて、偉人の言うことは違いますね。
http://www.toyosato-elschool.net/
最初見たときは、手すりを滑り台にして遊ばないように障害物を置いたのかと思ったが、全然違った(笑)。
2階の端からみた廊下の長さは圧巻。これは子供だったらダッシュしたくなるよね。
2階は基本的に当時のままの状態で保存されているが、教室自体は使われていない。
卒業制作?で書いたとおぼしき壁画が残されていた。
3階にも小さな講堂があった。パンフレットでは「唱歌室」とあり、要は音楽室らしい。
しかし床はかなり使い込んでいるというか、結構傷みがはげしい。
ちなみにこの校舎は、アニメ「けいおん」の舞台として描かれた場所としても有名で、この会議室は軽音楽部の部室として設定されているとのこと。
ファンの方が黒板に寄せ書きしている。「令和元年6月」とあるので、つい最近書かれたものみたい。
それ以外にも、この校舎の当時の黒板や水飲み場など、いろいろ時代を感じる。
「学級の週刊ニュース」こんなものうちの小学校にはなかった。
この水道も年季が入っている。
小学校の中に「売店」がある!
校舎の向かって右側、渡り廊下を挟んだところに講堂があるのだが、訪れたときにはモデル?の撮影が行われていてちゃんと撮影できませんでした(残念)。
建物の向かって左側には、「酬徳記念館」と呼ばれる建物がある。かつては小学校の図書館だったとのこと。
建物の中は 「アール・デコ」調というのか、非常に洗練された装飾となっている。これはおしゃれな建物だ。現在は観光案内所兼休憩所みたくなっているが、ここはお金を取ってもいいんじゃないかと思う。
せっかくなので、館内で昼食。うなべんにサイダー(笑)。 館内は基本エアコンが入っていないだのが、ここはエアコン完備で涼しくて気持ちよかった。
◇小学校として使い続けるのはどうなのか
豊郷小学校旧校舎群は、ヴォーリス建築を代表する建物として素晴らしいの一言であり、解体されずに残されたことも素晴らしいことで、建物に興味のある人は是非とも見ておくべき建物であることは間違いない。
しかしながら、建物の保存状況などを見て思ったのは、改修して小学校として使い続けることができたかどうかについては、言うほど簡単ではないだろうというのが率直な感想である。なので建て替えようとした当時の町長の考えもわからなくはない。結論から言うと、今のような利用方法(いわゆる博物館的な位置づけ)が一番無難かなとは思う。
あと、アニメ「けいおん」の舞台として描かれて、「聖地」扱いされているというのがこの場所を象徴していると思うが、「ノスタルジー」に浸ることのできる場所であることは間違いなく、ここ豊郷の歴史や文化を象徴する場所であるのは間違いないので、町のシンボルとして保存していく今の利用方法はベターだと思う。それにしても「けいおん」の作者はどのような思いでここをアニメの舞台にしたのだろうか。
◇古い建築の再生には結構お金がかかる
以前金沢で町家再生に関する視察に参加したことがあるが、古民家を再生(リノベーション)しようと思うと、建物の新築並(もしくはそれ以上)にお金がかかるとのこと。わかりやすい例で言うと、家電製品が故障した場合、修理に出すよりも新しく買い換えた方が安くて良い品が手に入るのと同じである。古いものを長く使うというのは、言うのは簡単だが、実際は思った以上に維持管理経費がかかり、お世辞にも経済的だとはいえないのが現状だと思う。
かくいう筆者も福井の田舎で実家暮らしだが、昭和初期の建物で(築90年)、一度大規模なリフォームを行っている(お金を出したのは親だけど)。仮に実家が小さい家であれば、解体撤去して違う家を建てていたかもしれないが、田舎特有の無駄に大きな屋敷のため、仮に親が他界した場合、空き家にしておけないといった問題もある(近所に迷惑がかかる)ので今でも住み続けている(生まれ育った家ということで愛着もあるが)。
豊郷小学校旧校舎の場合、約5億4千万円かけて大規模改修したらしいが、実際校舎を見学して思ったのは、小学校校舎として使用する場合はもっとお金をかけないと難しいと思う。少なくともガラス戸の取り替えと床の張り替えは必須だと思う。外観だけ保存して、中身は大幅に作り替えないと実際使いづらいと思うがどうだろうか(こどもは走り回るからねえ)。大学キャンパスであれば現役で使えるかもしれない。
◇老朽化の進むヴォーリス建築
近江八幡を中心に今でも数多く残るヴォーリス建築だが、中には結構傷みの激しい建物もある。
今年の春に旧近江八幡郵便局を見に行ったが、結構いい感じで朽ちかけていた。当時のままと言えば聞こえは良いが、現状建物としては使い物にならないレベルだった。改修するお金がないからだと思うが。果たして今のまま残しておけるのだろうか・・
旧豊郷小学校を訪れることができたのはとてもよかったが、まあいろいろ考えさせられる場所でもありました・・